こんな時期ですが……
お待たせいたしました「あなたも調律師になれるかも⁈」第3弾です!
調律師は全く絶対音感は必要ないということ、そして最初に合わせる音は下から数えて4番目の『ラ』の音というのは前回ご案内しました。
意外に思われるかもしれませんが絶対音感は使わないのでおよそ230本ある弦の調律の最初に合わせる中央の「ラ」のみ音叉や機械(チューナーなど)の音を聴いてそれに合わせます。調律はちゃんとした人がやると一般的にいわれる絶対音感より相当精度の高い仕上がりになるのです!
といってももちろん『勘』などで適当にやるわけではありません(苦笑)。国際標準ピッチというのが440Hz(ヘルツ)と定められています。アメリカやイギリスなど英語圏のオーケストラは440。ウィーンフィルやベルリンフィルなどのドイツ語圏のオーケストラは444とか…。日本国内でのクラシックや吹奏楽のコンサートなどの多くはそれらの間をとってなのか?442Hzで調律、チューニングされていることが多いようです。ポピュラーコンサートでは441が多いかな?…私の経験ではこの高山でのコンサートでかつて440や443、444で指定されたこともあります…。
さて例えばこの440Hzと442Hzはどれくらいの違いがあるのでしょうか?
実際に「音叉」を使ってそれぞれの音の高さを聴いてみましょう…440Hzは1秒あたり440回振動するという意味です。
↓440Hzの音
↓442Hzの音
どうですか?微妙に違う?よく聴くと違う気がする?(笑)…
実は調律師の私が聴いてもそんなにわかりません。でも調律師は440のピアノを441に上げたりしなきゃいけないことはしょっちゅうあります。じゃあ、やっぱり適当なのか?(笑笑)…
↓適当なワケではない理由のヒント、440と442を同時に鳴らしたものを聴いていただくと少しわかるのではと思います。よーく聴いてみてください!
これならどうでしょう!440・442を単独で聴くよりこの2つを同時に鳴らして聴くと「音の波(うなりのようなもの)」がわかると思います。2ヘルツの差なので1秒間に2回、ワン・ワン・ワン・ワンのようなウナリが聴こえたはずです。そうです!調律はこの音のウナリを聴きながら音を合わせたりずらしたりしながら調節する作業です。ワンワンワンをワーンワーンワーン、ワーーーンワーーーン、そしてワーーーーーー…とウナリを無くせば音が合った!ということになります。
440でも442でも変わらんのじゃね?と思われるかもしれませんが(笑)…聴いてだいた音叉はピッチそのものの高さの音ですが、ピアノに限らず実際の楽器は一つの音を鳴らすと「倍音」といってたくさんの音が含まれています…ちょっと専門的な話になりますが、実際の楽器では2Hzの差はすごく大きくずれて聴こえてしまいます。ちょっと音痴かすごく音痴か?みたいな話しですね(笑)。でも音痴でもすごく良い音だとそれはそれで魅力的だったり…音楽は本当にビミョーなものですね。
さて4番目のラの音に合わせる、といってもその『ラ』そのものに3本の弦が張ってあります。近づいて見てみましょう。↓
もっともっと近づいてください!
3本ずつ、わかりますよね?ピアノは1つの音につき3本の弦が張ってあります。理由は1本より3本だとより豊かな響きがするからです。
弦1本につき1本のチューニングピンに巻き付けてあります。調律はもちろん1本ずつしかできないので1本の弦を動かすとその音だけずれてしまうので合わせられなくなります…さてどうしましょう?…そこで前回ご紹介したウエッジ(音を止める道具です)を使って3本の内右と左の弦の音を止めてしまいます。つまり調律は基本的に真ん中の音(基音)を合わせてそれを聴きながら左右の弦をそれぞれ合わせる作業となります。
さて最初にラの音を合わせたら次にどの音を合わせましょうか?もう音叉や機械は使えません(笑)。
実は次からは音叉で作ったラを中心としたファ~ファの間、黒鍵も合わせた12の音を合わせます。『平均律音階』を作る作業なのですが、これがまた説明するのも説明を聞くのもちょっと大変かと思いますが…(苦笑)。
以下手順を説明します……ピアノをお持ちの方は是非見ながらの方がわかりやすいかもしれません。
1 何度も出てきました、まずは音叉で合わせた下から4番目のラ!次からはすべて合わせた音と一緒に鳴らしてウナリ(音の波)を聴きながら合わせます。
2 上のレ(完全4度上)
3 下のソ(完全5度下)
4 上のド(以下同じです)
5 下のファ
6 上のラ♯(シャープ、ここで初めての黒鍵です!
7 上のレ♯
8 下のソ♯
9 上のド♯
10 下のファ♯
11 上のシ(白鍵です)
12 上のミ(白鍵)
以上が最初の音階を作る順番です。調律は常に前に合わせた音と同時に鳴らしてウナリを調整する作業です。ワンワンワンからワーンワーンワーン…と無くしていけば、と説明しましたがこの音階を作るときはわざとウナリを出さなければいけません。合わせるんでないの?といわれるかもしれませんが(笑)、どうしても『平均律音階』をつくるために必要な作業です。またワーンワーンの早さ(テンポ)がまた重要で、2のレは秒間1回、3のソは3秒に2回(文章での説明は本当にややこしい(^_^;))…
…この音階を作るというのはすごく専門的な内容ですので興味のある方はどうぞコサカ楽器調律師までお問い合わせください!
さて、誰が何といってもとにかくこれで1オクターブに必要な音をすべて調律できました!(笑)
この後の手順は…
1つの音に3本の弦があることは述べました…最初に合わせた真ん中の弦に対して両側の弦もそれぞれ調律します。
合わせた音と同時にオクターブ上下して88鍵を合わせていきます。
『平均律割振り』の後の部分はエラい簡単な説明でしたが…実はとても奥が深く、ウナリがなければ完璧!というわけではないところがまた調律の奥深いところです。
調律師を養成する学校では3本を同じ音に合わせる「ユニゾン」、次に「オクターブ」そして平均律音階を作る「割振り」の順に学ぶのが多いのですが、実は『ユニゾン』がより奥が深い作業といわれています…長く調律の仕事をやらしていただいている私も音楽的に美しい『ユニゾン』を極めるのは一生かかるのではないか、と思うほどです。
3回にわたってごく簡単に???(笑)調律の手順を説明させていただきました。
実は調律師の仕事はこの『調律』だけではなく、タッチを調整する作業などもっと多くの時間を必要とする仕事もあります…良い楽器に仕上げるというのはキリがないですね…。また質問などいただければピアノも音楽も大好きな調律師がご自宅のピアノや店頭のピアノを使ってできる限りご説明いたします!
どうもありがとうございました‼