今回紹介する工程は「スプーン掛け」です。
ピアノなのにスプーン?と思われるかも知れません。実はピアノの中にもスプーンがあるんです。
前回の「ダンパー総上げ」では、右のペダルを踏んだときのダンパーの動きを揃えました。
スプーン掛けもダンパー関係の工程ですが、こちらは「(右のペダルを踏まずに)鍵盤を弾いたときのダンパーの動くタイミングを揃える」のが目的です。
わかりにくいですね???すみません……
ピアノはペダルを踏まなくても、鍵盤を押せば音が鳴るし、指を離せば音が止まります。
これはひとつひとつの鍵盤ごとにダンパーがついていて、弾いた鍵盤に対応したダンパーのみを動かすことができる仕組みになっているからです。
「カラ直し」の工程でもご説明していますが、アップライトピアノのアクションは大きく4つにわかれ、2パターンの動きをしています。
弦の開放、止音にかかわるのは鍵盤→ウイペン→ダンパーの動きです。
①鍵盤を押すと、鍵盤の奥についているキャプスタンボタンがウイペン(ウイペンヒール)を持ち上げる
②ハンマーが一定の距離前進したところで、ウイペン奥にあるスプーンがダンパーレバーの下部に接触する
③スプーンに押されたダンパーレバーが動き、フェルトが弦から離れて開放状態になる
鍵盤から指を離せばこれと逆の動きをします。ダンパーレバーにはバネがついているので、このバネの力で弦をおさえておくことができます。
スプーン掛けでは②のタイミングを適正に調整します。
②のタイミングがずれていると、発音・止音のばらつき、音がしっかり止まらない、タッチが重すぎる・軽すぎるといったトラブルのもとになります。
ヤマハの場合は「ハンマーが18mm前進したところ」が②のタイミングの基準です。
この基準より早いもの・遅いものをみつけて修正していきます。
ウイペンを指で持ち上げて、スプーンとダンパーレバーが接触するのを手の感触で確認します。
そのタイミングが調整基準に合っているかどうかを、ハンマーの位置で判断します。
こちらが実物のスプーンです。ちゃんとスプーンの形してますね(笑)
これを工具で前後に曲げて調整します。
専用の工具をスプーンにひっかけて、前後に曲げます。
ダンパーが始動するタイミングが早いときはスプーンを手前へ、遅いときは奥へ曲げます。
画像はピアノからアクションを外した状態で撮影していますが、実際はアクションを付けたまま作業します。
スプーンはアクションの裏側についているので、手探りで工具をひっかけます。
スプーン掛けは、必ずダンパー総上げを確認したあとに調整します。
ダンパー総上げの工程でダンパーワイヤーを曲げると、スプーンがダンパーに接触するタイミングが変わってしまうのです。
スプーンを完璧に調整してからダンパー総上げを見て泣かないように注意です(笑)